ほぼ一般人しか載らない異色の雑誌「東京グラフィティ」が今年、創刊20周年を迎えた。街や自室で撮ったポートレートが並ぶ「時代のアルバム」は、179冊目になった。
渋谷の「マンバ」「ギャル男」、秋葉原の「コスプレモデル」、表参道の「おしゃれキッズ」――。2004年の創刊から5年間に出た人たちを、今年10月号で再取材した。
当時と今の写真を並べ、企画「タイムスリップ写真館」で誌面化。編集部がX(旧ツイッター)で紹介すると、770万回以上表示され、コメントの9割が好反応だった。鈴木俊二編集長は「(メイクや服装の奇抜さで)ネガティブな印象になり得る人たちだが、自分とテイストが違う人を、同時代の仲間として受け入れる空気感がうれしかった」。
誌面に、著名人やタレントはほぼ出ない。主に東京都心で取材した多様な一般人を、性別、年齢、属性など既存の「セグメント」にこだわらず、羅列することにこだわり続ける。今年7月号のファッションスナップ企画「TOKYO LOCAL」では、秋葉原で「オタ活」する23歳会社員、浅草に立つ粋な97歳、皇居ランナーの53歳主婦など、29人が登場した。
鈴木さんの思い入れが強い企画の一つが、子どもの頃夢見た職業のポーズで写真を撮り、今の仕事も紹介するものだ。例えば、「プロ野球選手(巨人)」を夢見た男性は24歳になり、運送・営業に従事。スーツ姿で、きれいなバッティングポーズを決めている。
「(夢を追ってかなえた)大谷翔平(選手)に、全員がなれるわけではない。夢がかなわなくても、それはそれで良い感じに生きているのがリアル。そんなポジティブな空気を伝えたい」
企業とコラボ数百件 羅列で伝える「リアル」
雑誌の平均読者層は18~30代の男女。季刊で、毎号2万部発行する。紙媒体離れで部数が徐々に減る中、企業や大学、官庁や自治体などとの協業にも力を入れ、これまで数百件を手がけた。一般人の羅列で協業先の雰囲気を伝える手法で、冊子などを作る。
大学案内では、体育会の主将や成績優秀者など「目立つ」学生よりも、「普通」の学生を多く出し、リアルな雰囲気を伝える。
近畿大学は2015年から毎年、入学志願者向けの案内「近大グラフィティ」を、協業で作る。今年作った88ページの案内には、ファッションスナップ、教員や学生の部屋紹介などで千人以上が登場する。
初号から関わる広報室の坂本由佳課長代理は「総合大学なので、様々な人が集い、出会えるのが魅力。雑誌のコンセプトと合致した」。
編集部員が声をかける「ゲリラ撮影」を貫く。他大学の案内では登場することが少ない留年生や、髪を真っ赤に染めた学生も載せる。「素の姿、空気感が伝わる。大学の財産は学生。元気、エネルギッシュと評される近大の雰囲気作りの一翼を、冊子が担えている」
「おしゃれ」や「かっこいい」啓蒙しない
鈴木さんに、20年間の雑誌作りで大切にし続けていることを聞いた。
――20年前を振り返ると…